雨をしのぎ、日差しを遮り、季節や天候に応じて快適な環境を生み出してくれる。
さらに材料の確保が比較的容易で、自然を破壊しない。
古の人々は、よくぞ「茅葺」を屋根として考え出したものだと感服します。
火に弱いことや、今は材料や人員の確保が難しく維持コストが高くなってきていることなどで現代の一般生活にはそぐわない面もありますが、「自然と共存する循環型の建築資材」という知恵そのものが、技術と共に未来へ引き継ぐべきことだと思います。技術革新や利便性・経済性を優先するあまり、大切なものを置き去りにしてきた人類。SDGsが強く叫ばれるようになったということは、置き去りにしてきたものに目を向ける時代が来ているということ。ぜひ、茅葺をきっかけにいろんなことに思いを馳せてみてください。
屋根の葺き替えで出た傷んだ茅は、焼却などの廃棄処分ではなく、田畑のたい肥として土に返します。
古茅は拮抗(きっこう)菌を多く含む「最良の堆肥」といわれます。
茅は地域性を持ち、日本のあらゆる所で見られます。茅場として手入れを行なって行く事で、枯渇することはありません。
空気中の二酸化炭素を吸収し、それを放出することなく蓄える働きがあるので、温室効果ガス削減に作用します。
適切に管理された茅場・草原は、生物多様性の宝庫でそこに生きる生物を守り、雨水の蒸散を抑え水を浸透させ、地下水へとつなげます。
四季を通じて阿蘇にお越しになった方は、春夏の青々とした草原と秋冬の黄金色のススキをご覧になったことがあるでしょう。
あれは自然に存在するものではなく、数百年もの昔から人の手によって維持されてきたのです。
その中で大切な役割をしてきたのが「野焼き」。阿蘇ではもう千年以上も昔からになります。
草原に火を放って枯れた草を焼き払うことで、新たな春の芽吹きを促し、ダニなどの害虫を駆除し、ヤブ化の原因となる低木の生長を抑えます。
そうしてまた良質な茅、放牧された牛の餌となる草に恵まれます。
枯れた草原を放置しておくことはヤブ化につながり、草原は失われ、水の浸透力を衰えさせます。
最も覚えておきたいのは、いったんヤブ化した地を草原に戻すには膨大な時間を要するということです。
古の人々も試行錯誤はあったことでしょう。そうして現在の野焼きが脈々と受け継がれてきたのです。
野焼きは「燃やすことで二酸化炭素を出すから環境に悪い」というご意見があります。
焼いているその時だけを見れば確かにそうですが、茅の持つ炭素固定の力、そしてその後の草原の再生速度が速いこと、再生した元気な草が二酸化炭素を吸収しまた炭素固定させること、これらをトータルで見ると野焼きは草原の力強さを維持して二酸化炭素の減少に貢献していると言えます。
また、野焼きをおこなうことで害虫を駆除し、また新しい元気な生命のサイクルが生まれるのです。
決して個々の私欲ではなく「阿蘇の草原を守る」という目的で行われているものとご理解ください。